【Springboard】研究評価、現在の慣行、将来的な協力アプローチにおける変化の受容
2025年5月16日
当社の白書「研究評価の現状:評価実践に関する研究者の視点」の洞察をもとに、当社のSteven Inchcoombeが実践例と今後の協力アプローチについて考察します。
2025年4月16日
Research Publishing
著者:Steven Inchcoombe(スティーブン・インチコーム)、President, Research(プレジデント、研究部門)
研究をめぐる環境は、急速に変化しつつあります。研究の信用と公正性、オープンアクセスとオープンサイエンス、包括性と公平性の向上が求められるなか、研究を実施し、共有する方法が進化しています。研究者には、多様な人々と関わり、研究データを共有し、学術分野を超えて協力することが、これまで以上に期待されています。この変化は、オープンサイエンス環境への移行とともに、研究者とその研究成果を評価すべき方法を再検討するという課題を学術コミュニティーに突きつけています。
シュプリンガーネイチャーは、長年にわたり、研究評価に対するバランスの取れたアプローチを提唱してきました。特に、「研究評価に関するサンフランシスコ宣言」(DORA:Declaration on Research Assessment)に早くから署名し、従来の評価基準(研究者の発表論文数、引用数、h指数、インパクトファクターなど、これまで重要視され、特定の権限の枠内でのみ有用である基準)では、研究者の貢献を十分に把握することはできないことを認識しています。また、研究者が独自のニーズや方法論にもとづいて評価を受けることの重要性も念頭に置いておく必要があります。業界が採用している現行のシステムは、もはや目的に適うものではありません。
当社では、評価実践の変化にともない、研究者と研究機関、および助成機関のニーズへの対応を改善するため、実務を積極的に見直し、適応させる取り組みを長年にわたり継続しています(Nature Research(現在のネイチャーポートフォリオ)では、1990年代初頭から代替評価基準を推進してきました)。新たに発行した白書「The state of research assessment: Researcher perspectives on evaluation practices(研究評価の現状:評価実践に関する研究者の視点)」は、この目標の達成に向けた最新の進展を示しています。
この調査は、あらゆる地域とキャリア段階、学術分野におよぶ6,600人以上の研究者による意見を活用した同種の調査としては最大のもののひとつであり、研究評価の現状と、現在の環境への対応を模索する研究者のさまざまな経験や見解、希望を把握する資料となっています。
得られた知見の多くは、当社がすでにパートナーと議論してきた内容に重点が置かれていました。すなわち、研究者が取り組んでいる活動の多くが、評価業務において適切に考慮されていないという点、そして研究成果以外の貢献が評価に占める割合を高めてほしいという要望があるという点です。また、興味深いことに、最近PLOSが開催したステークホルダー会議でも上記の結論が反映されており、科学に対するあらゆる貢献に対する認識を改善する必要性について議論されました。
ただし、意外な結果もいくつか明らかになっています。一方では、研究者は、自分たちに対する評価方法について、予想以上に前向きにとらえているのという結果も得られています。しかし、他方では、評価プロセスに対する研究者の見解と確立されたベストプラクティスとの間の食い違いや、定性的指標と定量的指標に関する意見の対立など、いくつかの軋轢も明らかになっています。
私たちは、研究コミュニティーの一員として、研究評価の改善に向けたいくつかの対策を講じることができます。たとえば、研究者による評価プロセスへの対応をサポートするリソースやトレーニング資料を作成するとともに、それを補強するシステムに投資することも可能です。また、研究評価改革イニシアティブへの参加を促すことへの意識を高め、ベストプラクティスを推進することもできます。さらに、多様な研究成果を認めることを推奨し、社会に貢献することの重要性を強調して、そのような活動のモニタリングを支援することもできます。
研究評価における有意義な変化に対処するためには、私たちの多くが同意している協力的なアプローチが必要となります。
シュプリンガーネイチャーでは、以上のような研究評価の推進に向けて以下の取り組みを行っています。
- DORAに署名した企業として、より包括的な研究評価エコシステムの実現に引き続き重点的に取り組んでいます。また、業界調査を通じ、研究評価に関するオープンな対話に引き続き貢献するとともに、多様な評価基準の提示や責任あるオーサーシップのサポートなどのDORAの勧告を支持し、情報にもとづく変化への対処に総力をあげて取り組んでいます。
- サービスの対象となるコミュニティーと協力し、これまで以上に学界のニーズを満たすオープンな評価基準の策定に向けて取り組んでいます。あらゆる地域や学術分野、キャリア段階における取り組みを通じ、現在と将来の研究評価プロセスにおける研究の公正性を推進するあらゆる貢献を評価し、認識する研究文化を醸成します。また、オープンデータやオープンコード、オープンプロトコルを共有する新たなアプローチを開拓します。さらにシングルデータポリシーやオープンコードポリシーを通じ、研究者自身によるが研究成果の共有を容易にし、さまざまな方法で科学コミュニティーと協力し、データ管理と出版を改善します。当社がFigshareとDigital Scienceと提携して進めているState of Open Dataプロジェクトは、オープンデータに関する調査・分析として、最も長期間にわたり実施されているプロジェクトです。
- 当社では、このテーマに関する議論に参加し、より公平な研究評価の未来に向けて協力してくださるパートナーを歓迎しています。また、当社のネットワークとプラットフォームを利用し、研究評価改革に関するリソースを共有するとともに、このテーマに関する議論を推進します。さらに、Transparency in the Process of Science、New Frontiers of Peer Reviewコンソーシアム、Committee on Publication Ethics、Open Researcher and Contributor IDなど、研究と研究評価に対するオープンで透明性が高いアプローチをサポートする組織と提携しています。
- 当社は、研究機関と資金提供者に対し、研究実績を評価する包括的なツールとサービスを提供しています。Nature Research Intelligenceは、学術的な卓越性と協力、実社会へのインパクトを証明する透明性の高い評価基準に取り組んでいます。同組織では、多様なデータベースを活用することにより、信頼性の高い知見を提示し、研究機関の戦略決定をサポートし、情報にもと助成機関の選択を支援します。Nature Indexニュースレターには、研究管理と研究評価に関する最新のNatureコンテンツを掲載しています。
シュプリンガーネイチャーは、バランスの取れた包括的で透明性の高いアプローチを採用することで、コミュニティーと協力し、持続可能で効果的な研究評価の構築を目指しています。
詳細については、今回の白書「The state of research assessment: Researcher perspectives on evaluation practices」をご覧ください。
Steven Inchcoombe(スティーブン・インチコーム)、President、Research
以前は、チーフ・パブリッシング・オフィサーであり、ネイチャー・パブリッシング・グループおよびのパルグレイブマクミランのCEOを務めた。
スティーブンは、研究者やより広範な研究エコシステムに貢献することに尽力しており、現在は、専門家による監視のもと、オープンリサーチ技術やAIを責任を持って使用し、このエコシステムを信頼性が高く、より効果的で包括的なものに進化させるうえで、当社が重要な役割を果たせるようにすることに注力しています。
スティーブンは以前、フィナンシャル・タイムズ紙の発行人を務め、ft.comを率いていました。1990年から2000年まではIDCに在籍。奨学金を得てオックスフォード大学マートン・カレッジで原子物理学および固体物理学を専攻として物理学を学びました。1990年にPWCで公認会計士の資格を取得。
Springboard blogについて
Springboard blog(シュプリングボード・ブログ)は、オープンリサーチを推進するため、シュプリンガーネイチャーおよびそのパートナーからの最新の見解、コメント、ディスカッションを紹介するプラットフォームです。詳細は、Springboard blogのウェブサイトをご覧ください。
シュプリンガーネイチャーについて
シュプリンガーネイチャーは、世界をリードする研究出版社のひとつです。当社は、最も多くのジャーナルや書籍の出版数を誇り、オープンリサーチのパイオニアでもあります。180年以上にわたって信頼されてきた主要ブランドを通じて、研究者が新たなアイデアを見いだしてそうした発見を共有すること、医療従事者が医学の最前線に立ち続けること、教育者が学習を促進することを支援するテクノロジーを活用した製品、プラットフォーム、およびサービスを提供しています。当社は、当社が支援するコミュニティーとの協力のもと、知識を共有し、世界に対する理解を深めるための進歩に貢献していることを誇りに思っています。詳細は、about.springernature.comおよび@SpringerNatureをご覧ください。
本件に関するお問い合わせ
宮﨑 亜矢子
シュプリンガーネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: [email protected]
本プレスリリースの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語プレスリリース:Embracing change in research assessment, current practices and future collaborative approaches